読売新聞
伸びやかな歌声でデビュー 〜黒田有紀
牧瀬里穂に似たルックスと伸びやかな歌が魅力の22歳。昨年までは福井で活動するアマチュアの一人に過ぎなかったが、国内最大規模のポップスのコンテスト「ミュージック・クエスト」で金賞に輝いて、道が開けた。
恵まれたスタートだ。最初に舞い込んだ仕事が、チャゲ・アスの飛鳥涼と彼の作品でデュエットすること。さらに、デビュー曲となった「風 吹いてる」も提供された。「私にとってはとても大きな存在だったので、この上なく光栄」
同曲を含むデビュー・アルバムは「いろんな私が楽しめる、遊園地のような作品」。学生時代はドラマーだった。その腕をライブで披露する機会をひそかに狙っている。
GiRL POP vol.14-1995 July
思い込みが激しいほうなので、高校生の頃はドラムでメシ食ってくぞなんて思ったり(笑)
4月26日にシングル「風 吹いてる」でデビューしたニュー・フェイス、黒田有紀。
小柄なカラダからは想像もつかない力強さと、ツヤがあって伸びやかなボーカルは デビュー作の作詞、作曲をしたASKAセンセのお墨付きだ!
アマチュア時代はコンテスト荒らしだった(!?)という彼女のプロフィールを紹介します。
黒田有紀の歌声を初めて聴いたのは、ASKAのアルバム『NEVER END』。「YOU & ME」という曲で、デュエット・ソングを歌っていた。ツヤがあって伸びやか、周囲の光を集めるような歌声に魅力を感じて、“このコはいったい、何者なんだろう”とずっと気になっていたのだ。
答えが明らかになったのは、約2カ月後。実物の彼女に会った。バラード系の「YOU & ME」にフィットした歌声だったせいか、“しっとりして清楚なカンジ”の女の子を想像していたが、いい意味で違っていた。小柄だけれど、ボーイッシュで勝ち気そうな瞳。たとえれば、太陽と月ならば目ばゆい“太陽型”、犬と猫なら、気まぐれな“猫型”タイプ。果物なら甘酸っぱいパッション・フルーツ・・・と、いろいろな意味で“陽性のエネルギー”を感じさせる女の子だ。
そんな彼女と“歌”との出会いは、2歳の時。母と一緒にお風呂に入った時、「きらきら星」を教わり、すっかり歌好きに。近所のお祭りでカラオケ大会がある時は、いつも出場して盛り上げていたそうだ。だから、中学では合唱部に入るつもりだった。それが、先輩のススメで吹奏楽部に入部することになり、気がつけばパーカッション担当。
「“譜面が読めない”って言ったら、そうなっちゃったんです(笑)。はじめは小太鼓やシンバルをやっていて、そのうちドラムへ。それが今の私につながるんだから、先輩に感謝しなくちゃいけませんね」
その当時は、バンド・ブームの真っ最中。女の子だけのバンドを結成し、レベッカなどのコピーをしていた。ドラムができる女の子は貴重だったので、高校生になってからも、男の子ばかりのバンドから誘いがあったという。
「思いこみが激しいほうなので、その頃は“ドラムなら男の子に負けない。私はコレでメシを食っていくんだ!”と思ってました。でも、やっぱり男の子と比べると、音の鳴り方がきゃしゃなんですね。だから、スティックを回すパフォーマンスをしたりして、目立とうと懸命でした」
そうして、“ドラマー”としての個性を磨いていたわけだが、もともとが歌好き。高校卒業後、ボーカリストとして新たなバンドに加入し、ライブハウスやコンテストにも何度となく足を運び、受賞したこともあった。
「コンテストに出て気づいたのは、ライブハウスより大きいホールのほうが私は好きだっていうこと。ハイになって、気持ちがいいんです。緊張はするけど開き直るのが早いみたいですね」
その性格が、初めてのレコーディングで大いに発揮される。ASKAを前にして、まともに話せなかった彼女が、マイクと向かい合ったとたんに輝いた。バラードをきちんと歌ったのは初めて。でも、聞き直した時「自分なりに一生懸命やっている声だ」と認めることができたという。
その後、彼女のために用意されたデビュー・シングルは「風 吹いてる」。歌声に惚れたASKAが作詞・作曲を手がけている。愛する人を大切に想いながら、自らもしっかり歩んでいこうという、さわやかでスピリチュアルなナンバーだ。
「何回も歌ったので、恥ずかしながら声をつぶしてしまったんですが、歌っているうちにどんどんハマっていった曲です。広い野原にサ〜ッとなびくような風が吹いていて、そこをただまっすぐに、さっそうと歩いていく風景をイメージしました。“これからの私に対する応援歌的なものを”と、ASKAさんが言ってくれているような気がします。だから、今後、私が歌うこの曲を聴いてくれた人も、つらくても立ち止まらずに歩いていく気持ちになってくれたらうれしいですね」
鮮やかなコーラスに、彼女の澄んだ歌声がのると歌の世界がよりスケール・アップする。野原どころか、広大なオーストラリアの大地を彷彿させるほどの“ボーカルマジック”が、なんとも頼もしい。私は初めて彼女の歌声を聴いた時よりも、数倍、黒田有紀の“器の大きさ”を感じている。
「ジャニス・ジョップリンは、CDを聴いているだけで伝わるものがあるし、今井美樹さんの女性らしく優しい声もいい。私もこれからは、もっと自分の声に誇りを持って歌いたいと思います。サウンドのほうも、なるべく自分がその時に影響を受けた方向性を素直に出していきたいですね。今、好きなのはネオ・アコな感じ。自分が作った曲は、そういうアレンジにできたらいいな、と思っています。「風
吹いてる」では、マーチング・スネアとタンバリンでレコーディングに参加していたりするので、徐々にドラマーとしての一面もお見せできたらと思ってます。カスタネットとかで(笑)」
今は、夏に発売予定のアルバムを制作中。自ら作った楽曲も収録する予定ということで、「うれしい」とニッコリ。その笑顔が、素直でかわいかった。
GiRL POP vol.15-1995 September
風に向かって漕いでいかなきゃいけないって使命が自分の中にあるんですよ
ASKAの作詞・作曲によるデビュー作「風 吹いてる」で注目を集めた黒田有紀。
続くファースト・アルバム『bicycle』は、曲ごとにさまざまな声の表情をみせる彼女のボーカルが魅力的な作品だ。
この作品に込めた彼女の思いとは・・・。
今年4月にリリースされた黒田有紀のデビューシングル「風 吹いてる」とカップリングの「cry」は、ASKAによる作詞・作曲だった。
「<風 吹いてる>は、『ストリートファイターIIV』というアニメの主題歌だったので、自分なりになりきって力強さを表現したかった」
デビューに際しての大きなプレゼント。それをただ享受するより、自分なりにどう消化するかということが、彼女の最初の一歩だった。そんな経緯があって今回完成したのがファースト・アルバムの『bicycle』。ここにはシングルの2曲と、「cry」のアコースティック・バージョンを含む計7曲が収録されている。“昔から自転車がすごく好きで、私イコール自転車って思われるぐらい自転車に関してはウルサイんです(笑)”と話す彼女だが、このタイトルには自転車好きの彼女ならではの、暗示的な意味合いも込められているようだ。
「今まで歩いたり走ったりしながら着実に前には進んできたと思うんですけど、一生懸命進むほど、風を強く感じ、ましてやスピードを上げれば、よけいに向かい風が強くなるわけで。だからタイトルに“それでも私は自力で自転車を漕ぐ”という意味も込めちゃおうかなと思って(笑)。強がって“大丈夫、大丈夫”とか言って漕いでても、どこに小石が転がってるかわからないし、いつ雨が降ってきて滑っちゃうかわからないんですけど。でも“漕いでかなきゃいけない”って使命が、なんか自分の中にあるんですよ」
自分を信じて突き進むことの難しさ。『bicycle』は、それを知った彼女の、決意表明的なニュアンスが込められたタイトルでもあるのだろう。
「自分で作詞・作曲をしてこの世界に入ってきたわけじゃないから、今回アルバムで自作の曲を出していくにあたっていろんな不安もありました。『ストリートファイターIIV』の主題歌をうたってた黒田有紀が、こういうものを出すとどう思われるんだろうとか。自分がどういう人なのかってところをちゃんと受け入れてくれるんだろうかって。そうやっていろいろ考えて夜眠れなかった時もあったんです(笑)。でももっと前向きに考えようと思って。だから今は不安よりもなんかドキドキしてるというか。逆にそれを楽しみに、心待ちにしてみようと思えるようになって」
最初にそんな不安がよぎるのも当然だと思う。でも私は、アルバムがシングルのイメージを踏襲してなかったことにかえって安心した。大きなキャリアの差こそあれ、違ったアーティストから出てくるものが、同じテイストのものである必要はないのだから。それに、シングルを前提に本作を聴いたときの意外性は、どれも新鮮な魅力に満ちている。自作の曲をはじめとして、彼女の声の表情が、曲のシチュエーションによってこんなに豊かに変化していくことも、このアルバムが教えてくれた。
「ラジオをやってるとみんな“元気だね、明るくていいね”とか書いてくれるんですけど、失恋してそれなりに落ち込んだりもするし・・・・・・っていうような本音の部分とか、<子守歌>みたいにちょっとホームシックになったり、大人になりきれない部分とかも入ってるんです」
その「子守歌」については、こんな話がある。
「詞の世界にわりにけっこうギターが前面に出てるんじゃないかって意見もあるんです。でも自分の作りたいものにはこだわるんで(笑)。・・・・・・私、ふだん母にはありがとうなんて絶対言わないんですけど、感謝してるって気持ちを、歌でならプレゼントできると思ったんですよ。で、このギターていうのは、その恥ずかしさを隠してくれるんです。そういう役目を果たしてる(笑)」
昔デートした思い出を書いたという「自転車で海っ。」でも、もう少しテンポが速いほうがいいという意見に対して“これがいいんです、ここなんですっ”とこだわったと言う。そのこだわりの結果は、ふたりが自転車に乗って坂道を登っていくほのぼのとした風景と、独特のテンポの絶妙なマッチングを聴けば明らかだ。
メジャーなアーティストが手がけた作品でデビューすることは、必ずしも幸運とは言えない。幸運にするか、リスクになるかは、結局本人次第だ。もし最初に聴き手に与えたイメージを、オリジナルなもので拡げていく力があれば幸運になるし、逆だと肩書きだけがひとり歩きしてしまう。今回のアルバムは、黒田有紀が前者なのだということを示していると思う。
想いを歌に託しながら自分を明確に主張し始めた彼女は、これから進む先に困難があっても、やっぱり頑固なまでの正直さでペダルを踏み続けていくのだろう。「自転車で海っ。」の歌詞みたいに、“泣けるような登り坂(デコボコの砂利道も)/なんていうか・・・・・・人生ね”なんてことを言いながら。
GiRL POP vol.16-1995 November
爆弾発言、多々(笑)。後で聴き返すと、頭抱えちゃう
弾むようなテンポの良さで、どんな時でも相手を楽しく、元気づけてくれる
−黒田有紀のそんなおしゃべり が聴ける、彼女のラジオのレギュラー・プログラム「kraraの場合」。
今回はその収録におじゃまして、「まだまだヒヨっこ」と語る、パーソナリティ歴6カ月の黒田さんの、歌とはまた別の魅力をご紹介します。
週末の深夜26時30分。FMから弾むような元気いっぱいの声が流れてくる。彼女の歌を聴いたことのある人もない人も、あるいはCDを持っているファンであっても、この「kraraの場合」という番組を初めて聴いた人はたぶん、「コイツはいったい誰だ?」とまず思うに違いない。ボーカリストとして、7月にリリースしたファースト・アルバムでは、曲ごとに、実に変化に富んだ表情を覗かせてくれた黒田有紀だが、この番組の中では、アルバムで感じた、どの彼女ともまた違う顔を見せているのだ。
番組がスタートしたのは今年の4月。
「いちばん始めにこの話がきた時は、喜んで“やるわやるわ!”って決めたけど、やってみたらまったく初めてのことばかりで失敗の連続。最初は専門用語とかもわからなくて、教えてもらうのにも戸惑っていた。知らないっていうことが恥ずかしかったし」
とはいうものの、もともとが話し好き。「ひとり漫才やんかーって思われたらどうしよう」と本人は心配するけれど、ラジオからぽんと飛び出してくるようなキャラクターはにぎやかでとっても楽しい。だから聴いてる側にとっては意外なことなのだが、本番中の彼女はいつもとても緊張しているのだそうだ。そして、つい慌てて言葉を急いだりしてしまう。
「爆弾発言、多々(笑)。私、焦ると言葉遣いが荒くなってしまうんですよ。弟や幼なじみとか男の子に囲まれて育ったから、“オリャオリャー、コノヤロー”なんて荒い言葉を発する子になって。それが今でも抜けないんです。リスナーの男の子から、“怖い人というイメージがあります”というハガキをいただいたこともありました(笑)。それはヤバイなーって、不安を通り越して恐怖心に駆られたけれど、いまだに治まらないんですね。ここでちょっと開き直ってしまった。それが自分のカラーのひとつなんだって」
30分の番組の内容も、お気に入りの曲を流したり、身の回りの出来事を週に一度、MDで録音してきて流す「kraraのMD日記」というコーナーがあったり、リスナーからのハガキに答えたりと、黒田有紀の素顔により近づけるような構成になっている。
「ラジオでハガキを読むことに関しては、友達とお話しする、友達と触れ合うっていう感覚でやっています。自然と三枚目にに徹しているところは地のままかな。それでいて、深刻な相談を聞くときは真面目に答えたりしているのも、友達の前にいる時と一緒。男の子でなよっちいハガキが来たら“しっかりしろよー!”ってオシリを叩くみたいな感じでね」
リスナーからの唯一の架け橋であるハガキを彼女は一枚残らず読む。時には修学旅行のお土産が送られてきたりすることを素直に喜んだり、全部のハガキには答えられないことに責任を感じたりしながら。
「今は“有紀ネエ”とかいって、姉のように慕ってくれる人がだんだん増えてきて、悩み相談とか書いてあるんです。なかなか番組の中で答えることができないのが残念なんですけど、そうやって相談してくれる気持ちがね、すごくうれしい」
最初はただがむしゃらにやってきた彼女も、そういった経験を積むうちに、歌とはまた違って、ストレートにメッセージが伝わる媒体としてのラジオを見直し始めている。
「ラジオだと、ひと言でたくさんの人に大きな印象を与えてしまうということに最近気づいて、私なりに悩みましたね。でも、もともと自分もあっけらかんとして元気だし、あまり深く考えずに元気になれよー、みたいな前向きな発言をしようと心がけています。ラジオを通して話すと、写真とか曲だけ聴いたりしているよりも、より私を知ってもらえる。興味を持ってくれる人も増えると思ってますから、そういう意味でもやりがいを感じ始めてる。もともと一度始めるとのめり込むタイプだけど、もっともっとのめり込んでいきたい分野ですよね、ラジオって」
言葉や雰囲気がダイレクトに伝わることの不安と喜びの間で揺れながら、今は喜びのほうに大きく傾いている。これも番組スタートから半年が経って、彼女が成長していることの証だ。
「だけど、今でも本番中、段取りを見失って、焦って頭の中が真っ白になる場面があるんですよー!後から自分で聴き返したりすると、頭抱えちゃう。“なんでそんなこと言うんだよー!”って、私が私に向かって言ってる(笑)」
彼女自身は、そんな自分を「まだまだヒヨっこ」といって反省することしきり。でも、焦った時にふと無防備に現れる彼女の素の部分に触れたくてラジオのチャンネルを合わせるリスナーも多いだろう。とはいえ、オンエア中の黒田有紀は、歌いだしたかと思えばケラケラ笑い、テンポよく喋り、持ち味をうまく発揮している。この日も素晴らしい展開、リラックスしたムードで30分はあっという間に過ぎていったのだが・・・・・・スタジオから出てきた彼女は「今日も時々、頭が真っ白になった!」と笑った。
GiRL POP vol.17-1996 January
「当たり前で見過ごしがちだけど本当に大事なものに気づいたんです」
12月6日に発売されるシングル「こんな日曜日」は、黒田有紀らしいポジティブさと温かさにあふれたハッピーな一曲。
この曲に込められた彼女の音楽観、価値観を探ってみました。
また、12月16日の“LIVE GiRLPOP”のステージを目前に控えステージに向けられた現在の心境とは・・・!?
黒田有紀は質問にテキパキ答えてくれる。話していてウキウキしてくる。この日、取材場所となった神宮外苑を吹き抜ける風のように心地よい。たとえば、“黒田さんの中での音楽をやる基本て?”と、いきなり抽象的なことを聞いても答えは明確。
「音を楽しむ、です」
そして、にっこり笑う。
黒田有紀≫音を楽しむって、音楽をどう捉えているかっていうと、悲しい時に音楽を聴いてなごませてくれるとか、そういう精神的な安定剤の役目を果たしていたり、友達と音楽を聴いてワーワー騒ぐとか。ポジティブな自分にしてくれるものなんですよ。音楽とはずっとそのままで付き合っていきたいので、基本はそういう、自分がポジティブになれたり、楽しめるような、そういう部分をずっと持っていたいなって。
−たとえば今度のシングル「こんな日曜日」っていう曲は、“ある家族のある日曜日の風景”みたいなことが歌われてますが、話は主人公の女のコのデートの約束が壊れるというとこから始まりますよね。そこからどんどん悲劇的に話が転がっていく可能性もある話なんだけども、歌としてはすごくハッピーな温もりのある音楽になってる。自分の音楽をポジティブなものにしたいっていう、その感じって、この曲が持っているような感覚ですか。
黒田有紀≫そうですねぇ。あの曲で言えば、確かにブルー入っちゃってもいいような感じなんだけど、結局は“あぁよかった〜、たまにはこんな日曜日もあっていっかーっ”みたいな。話の流れとかも、楽しいっていうか、前向き、ですよね。そういう姿勢が自分の中では常にあるんです。彼にフラれちゃって“クッソォ”と思いながらも、“ま、いいや。でもなんとかしよう。もったいない、せっかくの日曜日だし”って実際自分が考えて、その日1日を楽しく過ごす。結局自分がそういう前向きな人間なので。落ち込む時もあるんですけどね。でも、結局は立ち直る。人生論でもあるわけですよ、私の。落ち込む時は落ち込んでもいいけど、でも負けずに立ち上がらなければいけない、という(笑)。
−作詞家の方とどんな話をしたんですか?
黒田有紀≫あのままです。話の展開は私が考えたんですけど、お父さんと1回デーとしたことがあって、その時のことを面白おかしくというか、面白くもないかな、伝えたんですよ。
今回のシングルはですね、家族のありがたさというのが最近私の中で大きいんですけど、まぁ、ホームシックにかかっていたのかもしれないですけれども。そういうものがあって、今の若者とかも、若者って私も一応若者の部類なんですけど(笑)、当たり前になっていてその愛情を見過ごしていたりするでしょ?両親とか、恋人でもそうですよ。当たり前の怖さっていうのがあったんですよね。その中で、ちゃんとやっぱりフッと心にゆとりをもって、両親とも接してみると、意外に本当に大事なものが何かわかる。そういうことに気づいたんです。今まで父親に“バカヤロー”とか言って、あ、いや・・・バカヤローとは言いませんけど、クソじじいとか言ってたんですけど(笑)、でも、後で気づくものってあるじゃないですか。そういうことが自分の中で大きかったりして、それでこういう曲が出来上がったわけです。
−ところで、12月の“LIVE GiRLPOP”に出演が決まってますが・・・・・・。
黒田有紀≫いやもうホントに、どうしましょうねぇ(笑)。
−今はどんな心境ですか?
黒田有紀≫そうですね。ウゥ〜っていう気持ちもありつつ、でも、とってもとってもおひさしぶりの、ってゆうか、今のところライブのペースが1年に何回もないくらいなので、とても楽しみでありつつ、なんかそのブランクが不安でありつつとか。いろんな感情がごちゃまぜになってて。ステージに立ったら自分がどうなってしまうんだろうっていう。ちょっと、開かずの間を覗くような楽しみがあって・・・(笑)。
−できれば客席で観ていたい?
黒田有紀≫観ていたいんですよ。
−黒田有紀のステージを?
黒田有紀≫ええ。
−本番に強いタイプと弱いタイプってありますけど、アマチュア時代はどうだったんですか?
黒田有紀≫本番に強いタイプだったですねえ。
−じゃあ、大丈夫でしょう。
黒田有紀≫いやぁ〜、わかりませんよ。
−どんなステージにしたいと思ってますか?
黒田有紀≫そうですね、当たり前のことですけど、自分だけじゃなく、みなさんも楽しんでいただけるようなライブにしたいなって漠然と思ってます。まだ、私も初めてですから、知らない方もいらっしゃるかと思いますけれどもどうぞお手柔らかに、と。
GiRL POP vol.18-1996 March
6つの夢たちへ
昨年4月にデビュー以来、猛スピードで95年を駆け抜けた黒田有紀。
96年もスピードをますます加速させていく彼女の可能性は無限大だ。
夢を現実に変えるパワーを持った彼女の、96年6つのキーワードとは・・・!?
私、じつはけっこう星占いが好きで、雑誌に載ってると必ずチェックするんです。去年、射手座は12年に1度のラッキーな年だったんです。念願のデビューも果たせて、アルバムをリリースしたり、ライブもできたし・・・。振り返ってみると、けっこう当たっていたのかもしれないな、なんて思います。
デビューしてからはとにかく無我夢中で、いろんな意味で音楽に全部のエネルギーを注いできたような気がします。好きで聴いたり自分の曲でも取り入れてたのは、大好きなギターサウンド。CDショップに行くと、そういうイギリスのバンドものとか北欧系のアーティストのコーナーにずっといて、一気に10枚くらいまとめ買いしちゃってた。でも、その時はそれでいいと思ってたけど、聴く音楽がだんだん偏ってきてしまうんですね。だからちょっと反省して、今年はバンドのメンバーとかスタッフに薦められた音楽も、積極的に聴こうと思ってるんです。
他のことでもそう、私って好奇心旺盛なくせに、すぐ行動に移せるタイプじゃないんです。小心者で(笑)。でも、まだまだ凝り固まる時期じゃないし、自分の幅を広げるためにも、今年はあらゆる面で外に出て行って、いろんなものを吸収したいんです。プライベートでも、興味を持ったものはどんどんやってみたい。一生大事にしたいから。黒田有紀の今年のキーワードは、“風になりたい”。がんばって、きっと風になってみせます。
LIVE 〜on stage
去年、ステージに立ったのは3回。ずっと緊張しまくっていたから、楽しいと感じながらやれたのは12月のLIVE GiRLPOPのステージだけなんです。でもようやく、自分のポリシーである“音を楽しむ”ということができるようになってきたので、今年はワンマン・ライブでその気持ちを開花させたいですね。やってみたいのは、自分でドラムを叩くこと。叩きながら歌いたくて、ひそかに練習してるんです。だんだん、手と口のバランスが取れるようにはなってきてるけど、お客さんに観せるまでには、まだまだ。とりあえず、ライブハウスのような空間で、みなさんともっと触れ合いたいです。
ラジオ 〜radio personality
最近、人と話しててもすぐにまとめに入ってしまうクセがあります(笑)。ラジオでパーソナリティーをやってるからでしょうね。最初は苦手だったラジオでのひとりしゃべりも、楽しいと思えるようになってきました。始めた頃は煮詰まったこともあったけど、最近は話が脱線しても、戻してまとめればいいや、と思えるようになってきたし。ラジオは、リスナーとのつながりを感じられるところが好き。ライブに来てくれたりした時に、友達みたいな気分になれてすごくうれしい。相談を受けたりするとやりがいも感じるし・・・。もっともっと、たくさんの人とコミュニケーションをとれたらいいなと思います。
出会い 〜an encounter
去年はデビューした年ということもあって、本当にたくさんの方と出会いました。自分のそれまでの人生とは別の世界の方々に会って、なんでも吸収しようと夢中でしたね。いちばん印象的だったのは、事務所の先輩のCHAGE & ASKAさん。学ぶことばかりで、すごい方たちだなぁと思います。今は、そういう出会いをどうプラスにつなげていけるのかはわからない。いろんなことを見て聞いて、そのなかから正しいものを見極める段階ですね。そして、自分のなかで確信を持てるものを早くつかみたい。人間は成長し続けるものだから、毎日が勉強。ひとりの人間としての部分も磨いていきたいです。
旅行 〜travel
今まで、海外ではニューヨークに1度行ったきりで、それがとてもいい旅だったので、またどこか知らない国に行きたいなぁと思ってるんです。異国の地に足を踏み入れて、日本以外の文化に触れたい。で、今年は、絶対ロンドンに行きたい!やっぱりイギリス系の音楽が好きだから・・・。目的はとくにないんだけど、とりあえずロンドンの空気を吸って、日常があるごくふつうの街並みを見て、一瞬でもイギリスの人たちのように振る舞えたらいいなぁ。もし行けたら、バシバシ写真を撮りまくりたい。もう、仕事でもなんでもいい。とにかく今からお金をためてでも、もう絶対、絶対行きます!
音楽 〜music
今、私のなかでのNO.1は、ベン・フォールズ・ファイブ!ベース、ピアノ、ドラムというトリオ編成なんだけど、そういう編成って好きなんです。今まで、ピアノというとクラシックの上品なイメージが強かったんだけど、ベン・フォールズ・ファイブはピアノでパンクしてるんですよ。すごいグルーヴがあって、初めて聴いた時は衝撃を受けました。こんなの聴いたことないぞ、という新しいものを感じた。アウト・オブ・マイ・ヘアーもいいですね。ギターのフット・ペダルを半分だけ広げた音で、ずっと1曲弾いてたりするんです。発想が面白いんですよ。今年もどんどんこういう刺激を受けたいです。
日曜日 〜sunday
去年はお休みが少なかったけど、全然苦にならなかったです。たまの休日も家にいることが多かったな。でも、今年は自分から進んで出掛けようと思ってるんです。電車恐怖症も治りつつあるので(笑)、まずは東京を探検したい。美術館に行ったり映画を観たり・・・もっとアクティブに。去年は好きな釣りをする時間もなかったけど、じつは行ってみたい釣り堀があるんですよ。暗い雰囲気で怖いんだけど、度胸をつけて行ってみようかな、と。あとは、自分の幅を広げるためにも、クラブなんかにも行ってみたいな。そういう、若者が集まる場所に行かなきゃと(笑)。意外と面白いかもしれないですよね。
GiRL POP vol.19-1996 May
Secret of My Music
現在、もうすぐ届くニュー・シングルをレコーディング中の黒田有紀。
音楽を作っていく上でぶつかるさまざまな壁をひとつひとつ乗り越えながらも、手応え十分の“いい曲”が続々と誕生しているという。
バラエティに富んだ数々の曲で、ソングライターとしても熱い注目が集まっている彼女。その才能の秘密を探るべく、ルーツ・ミュージックを聞いた。
黒田有紀はいつも明るく、フットワークがいいタイプに見える。もちろんそういう部分はあるのだが、しかし何か新しいことをやる時に、妙に慎重に考えたり、繊細に思い悩む面もあるという。それも、こと“音楽”に関しては、「黒田有紀らしいもの」を、どうしたら確立できるのか、どうやって伝えたらいいのか。ひとつ解決したら、またひとつ“お悩みポイント”が待っている。
そんな時に、彼女をバック・アップしてくれるのが生まれてから今まで耳にしたなかで強烈なインパクトを残した“ルーツ・ミュージック”たち。子供の頃はピンクレディーから始まった歌謡曲、中学生で始めた吹奏楽部ではクラシック、バンドでドラムを担当してからはレベッカやユニコーンといった邦楽ロックにハマり…という話は、以前から聞いていた。では、さらに彼女がプロのミュージシャンを目指すほどに影響を与えられた、目からウロコが落ちるほど衝撃を受けた「♪」とは、なんだったんだろう。彼女に聞いてみたら、意外な答えが返ってきた。
「“ロックってなんだろう”と思うきっかけになったのは、高3の頃にハマっていた“ロカビリー”でしょうね。当時、つきあってた彼がロカビリー野郎で。へへへ(←テレ笑い)。もともと、北陸(地元、福井もある)の富山は“ロカビリーのメッカ”なんですよ。だから、ずっと昔からロックンロールを愛し続けてきたおじさんが、ライブハウスをやったりしてて。よく、そういう人たちが音楽の話をしてくれたんだけど、興味深い話ばかりで今となっては勉強になったなぁと思います。で、私はGパンにウエスタン・シャツという、男のコのようなスタイルで踊りにいってました(笑)。当時流行っていたのは、サイコ系のグアナバッツビリーとか、ストレイ・キャッツ。曲にあわせて踊るのがただ楽しかったんだけど、それがきっかけで、ホントにいろんな洋楽を聴くようになったんです」
黒田有紀とロカビリー。思いもよらない組み合わせである。しかし、その後も彼女の好奇心は、さらに濃〜い世界へと進んでいく。
「それまでは、覚えやすくて日本人の肌に合う音楽が好きだったんですね。それが、レニー・クラヴィッツやアトミック・スウィングと出会ってからは、180度方向転換しちゃいました。今まで聴いたこともなかったジャンルの音楽に魅かれ始めて。とくにレニーは“神様だ!”と思うくらいにスゴいと思った。たぶん、あの歪んだ感じのギターとか、シンセじゃなく生音をグチャグチャに壊す楽しさに魅力を感じたんだと思います。“レニーの音はビートルズを思わせるものがある”と聞けば、ビートルズも掘り下げました。『アビー・ロード』に入ってる曲のような、“飛んじゃうぞ、ドラッグやってるぞ”みたいな曲がとくに気に入って。サイケな音楽とか、ドアーズも聴いた。とにかくアッという間に“ロックは自由だ。自分がやりたいことをやればいい”っていう考え方をするようになって、当時やってたバンドのメンバーとの音楽観の違い、みたいなものが出てきて、うまくいかなくなってしまったんです。私ね、けっこう我が強かったみたい(笑)」
当時19歳。“若気のいたり”ってヤツだろうか。が、その頃から、吸収してきた音楽を栄養に、自ら曲作りを始めたのだから、彼女にとっては大きなプラスになったのだと思う。
そして今、彼女は次のシングル&アルバムに向けて、曲作りに励んでいる。まず、いいメロディがわいてきたらコードをつけ、全体を仕上げていくというやり方。半日で出来てしまう曲もあれば、何日も苦しんでしまう曲もある、という。
「曲作りに関しては、まだいろいろと迷いますね。ベン・フォールズ・ファイブのようにパンクっぽくて、ちょっと変わったバンドが今好きなんだけど、自分で作る時は、もっとポップにしたいな、とも思うし。自分らしいものをもっと出した方がいいのか、今っぽいものをやればいいのかっていうことは、もう、ずっと悩んでるところです」
ホラね。冒頭で書いたように、彼女は悩みつつ、けなげに頑張っているでしょ。その結果、
「いろいろなタイプの曲を作れるのは、悪いことじゃないと思うんですよ。だから今は、自分から素直に生まれていいなと思って作った曲は、すべて世の中に出しても恥ずかしくない、と思えるんです。とにかく、歌いたいと思うメロディを作ることが大事なんですよね」
今回から、十川知司氏(アレンジャー)とともに綿密な打ち合わせをし、曲のアレンジも勉強することになった。「もらえるところはもらっちゃえ!」という精神で、アレンジに関しても貪欲に学んでいこうという姿勢だ。それでこそ、黒田有紀!
「野望に満ちてますっ。炎が見えるでしょ?(笑)」
その炎の一端は、次のシングルで見えるはずだ。
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